敷金の原状回復義務
敷金の返還について問題となってくるのが「原状回復義務」についてです。
原状回復義務については、1998年3月に(2004年2月に一部改訂)国土交通省(旧建設省)から「⇒原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という指針が出されていましたが、この指針はあくまでも目安であって、法的拘束力がないので、貸主(大家さん)、借主(入居者)双方がこのガイドラインと別の特約を定め、合意し、かつその内容が合理的であれば有効とされているのです。
しかし2017年春に民法の抜本的改正が可決し(抜本的な改正は約120年ぶり)、その民法改正の中にはトラブルが多かった敷金、原状回復義務についても明記され、今まで国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や、東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」という指針から、民法という法的にルールが明文化されたのです(施行は2020年を予定)。
ただ国や各都道府県から出されていたガイドラインという指針から法的にルールが明文化されはしましたが、その内容はガイドラインに沿う形になっているので、不動産業者の現場としては特に変わった感じはしないかもしれませんし、この民法のルールとは異なる特約を定めることは民法改正後も可能なのです。
特約を定めた場合、どこまでが有効で、どのような特約は無効かがまた難しい問題ですが、以下のすべてを満たしている場合は、その特約は有効と判断される可能性が高いです。
1:暴利的でなくかつ客観的、合理的な理由が存在する(公序良俗に反しておらず、借主に一方的に不利とは言えない特約)。
2:借主(入居者)がその特約の内容について理解している。
3:借主(入居者)が負担することを了承している。
つまり、「借主は退去時にハウスクリーニング費用の半分を負担する」という特約があった場合で、契約書にそのことが記載されており、借主の署名捺印があった場合は有効と判断される可能性が高いということです。
原状回復義務とは? | |
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国土交通省のガイドラインによると、原状回復義務について以下のように定義しています。
「賃借人(入居者)の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されていますので、これらは借主(入居者)負担という意味です。
逆に、「経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるもの」と定義されていますので、これらは貸主(大家さん)負担ということなのです。
以上のことから借主(入居者)の原状回復義務には、「経年変化、通常の使用による損耗等(自然損耗)の修繕費用」は含みませんので、原状回復義務とは決して「入居当時の状態に戻す」ことではないということが分かります。
いままではガイドラインに強制力はありませんでしたが、民法改正後は特約がなければ、この原状回復義務に従わなければなりません。
しかし契約書等で別の定めとすることも可能なので(有効かどうかは別として)、契約書等で敷金について、また現状回復義務についてどのような特約があるのか?等を確認し、退去時にトラブルとならないためにも納得してから契約することが大切になります。
⇒経年劣化と通常損耗(自然損耗)
■具体的には?
要するにガイドラインによると、以下のものは借主(入居者)に原状回復義務があるとされているのです。
◎借主(入居者)が通常の使用を超える住まい方をしたために発生した損耗、毀損等。
◎借主(入居者)が善管注意義務を怠ったために発生した損耗、毀損等。
◎借主(入居者)が故意、過失で賃貸借物件に損耗、毀損等を与えた場合。
通常の使用とは? | |
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ガイドラインによると、「通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるもの」となっていますので、通常の使用による損耗等の修繕費等は貸主(大家さん)負担で、借主(入居者)が負担する義務はないということになります。
では「通常の使用」とはどのような使用なのでしょうか?ガイドラインによると以下のように定義されています。
1:賃借人(入居者)が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの。
2:賃借人の住まい方、使い方次第で発生したり、しなかったりすると考えられるもの(明らかに通常の使用等による結果とは言えないもの)。
3:基本的には1であるが、その後の手入れ等、賃借人の管理が悪く、損耗等が発生または拡大したと考えられるもの。
4:基本的には1であるが、建物価値を増大させる要素が含まれているもの。
上記のうち、2及び3については賃借人(入居者)に原状回復義務がある、つまり通常の使用とは認められないと考えられています。
ただ2及び3であっても、経年変化や通常損耗が含まれているのが通常で、借主(入居者)はその分を賃料として支払っていると考えられていますので、借主(入居者)が修繕費用の全てを負担するのではなく、建物や設備の経過年数を考慮し、負担割合を決めていくことが妥当だとされています。
要するに、誰が住んでも発生するような損耗等は「通常使用」と考えられますが、逆に誰が住んでも必ずしも発生しないような損耗等、または誰が住んでも発生するような損耗等ではあるが、借主(入居者)の管理が悪いために損耗等が拡大したものについては「通常使用」とは認められないということなのです。
もちろん通常使用とは認められない場合でも、全額、借主(入居者)が修繕費用等を負担するのではなく、経年劣化や通常損耗等を考慮し、負担割合を決めていくこととされているのです。
■例えば・・・
具体的には以下のようなことは通常使用による損耗等と考えられています。
・畳の日焼け
・壁、床、天井の通常の汚れ
など・・・
逆に、
・タバコで畳を焦がしてしまった
・不注意で窓ガラスを割ってしまった
などは通常使用による損耗とは判断されないと思います。
善管注意義務とは? | |
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善管注意義務とは、民法によれば、「善良なる管理者としての注意義務」のことで、この善管注意義務を怠った場合は「善管注意義務違反」となります。
賃貸住宅で言えば、
「借主(入居者)が通常の住まい方をしていても発生するが、その後の手入れ等の管理が悪く、発生、拡大したと考えられるもの」
は、善管注意義務違反と考えられており、経年変化や通常損耗等を差し引いた原状回復費用が借主(入居者)負担とされています。
例えば・・・
・エアコン(設備の物)の空調を掃除しなかったためにエアコンが故障した。
・キッチン廻りの油汚れ等による損耗等。
・水廻りのカビ、水垢等。
・通常のクリーニングでは除去できない程度のタバコのヤニ。
など・・・
しかしこの程度の判断が難しいことも確かなので、退去時にトラブルとならないためにも契約時に確認し、日頃から清掃しておくことも大切となります。
施工単位 | |
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では原状回復費用が借主(入居者)負担と判断された場合、どの範囲までが借主(入居者)負担となるのでしょうか?
ガイドラインによれば以下のように定義しています。
「原状回復は毀損部分の復旧ですから、可能な限り毀損部分に限定し、その補修工事は出来るだけ最低限度の施工単位を基本としていますが、毀損部分と補修を要する部分とにギャップ(色あわせ、模様あわせなどが必要なとき)がある場合の取扱いについて、一定の判断を示しています。」
例えば壁のクロスの一部のみを借主(入居者)の故意、過失で損耗等させてしまった場合は、その一部のみの壁のクロスの張替え費用(クリーニング費用)が借主(入居者)負担であって、壁全体の張替え費用(クリーニング費用)すべてを借主(入居者)が負担する義務はないということです。
あるいは、床のフローリングなどでも同様の考えとなりますので、この場合は例え、「張替え費用(クリーニング費用)全額を請求されても、借主(入居者)は損耗等させてしまった一部のみの張替え費用(クリーニング費用)しか負担する義務はない」こととなります。
もちろんこの場合でも、「経年劣化や通常損耗等」が考慮されますので、一部の張替え費用(クリーニング費用)全額を負担する必要もないということになりますが、最終的には貸主(大家さん)、借主(入居者)双方の話し合いによって負担割合を決めていくこととなると思います。
以上のように「原状回復義務」についてはガイドラインで指針されており、民法改正(施行)後は法的に従わなければなりませんが、実際は契約書等で別の定めとしていることのほうが多く、その特約が有効かどうかについてトラブルとなることが多いので、契約時にただ署名捺印するのではなく、納得してから署名捺印するようにしましょう!
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